解説動画
2つの事象系があって、一方の事象系の結果が確定すると、もう一方の事象系の事象が起こる確率が変わることがある。このような変化した確率のことを
条件付き確率とよぶ。また、この場合は2つの事象系に
相関があるという。
例:2~9の整数からランダムに1つ選び、その結果から以下の事象系を作る。
事象系 \(X\)
事象 |
条件 |
選んだ数 |
\(x_s\) |
6以下(small) |
2, 3, 4, 5, 6 |
\(x_b\) |
7以上(big) |
7, 8, 9 |
事象系 \(Y\)
事象 |
条件 |
選んだ数 |
\(y_p\) |
素数(prime number) |
2, 3, 5, 7 |
\(y_c\) |
合成数(composite number) |
4, 6, 8, 9 |
- 合成数 : 自然数で、1とその数自身以外の約数を持つ数のこと。要するに素数でない4以上の整数。
この場合、それぞれの事象系は
\(
X=
\begin{bmatrix}
x_s & x_b \\
\frac{5}{8} & \frac{3}{8}
\end{bmatrix}
\cdots (1)
\)
\(
Y=
\begin{bmatrix}
y_p & y_c \\
\frac{1}{2} & \frac{1}{2}
\end{bmatrix}
\cdots(2)
\)
となる。
ここで、事象系 \(X\) の結果が \(x_s\) だったことがわかっている場合の事象系 \(Y\) について考える。
結果は2~6の5パターンに限定され、素数は2, 3, 5の3つ、合成数は4, 6の2つになるので、\(y_p\) が起こる確率は3/5, \(y_c\) が起こる確率は2/5になる。
この場合の事象系 \(Y\) は以下のように書く。
\(
Y(x_s)=
\begin{bmatrix}
y_p|x_s & y_c|x_s \cr
\frac{3}{5} & \frac{2}{5}
\end{bmatrix}
\cdots(3)
\)
一方、事象系 \(X\) の結果が \(x_b\) だったことがわかっている場合は、結果は7~9の3パターンで、素数は7だけ、合成数は8, 9の2つなので、事象系 \(Y\) は次のようになる。
\(
Y(x_b)=
\begin{bmatrix}
y_p|x_b & y_c|x_b \cr
\frac{1}{3} & \frac{2}{3}
\end{bmatrix}
\cdots(4)
\)
いずれも \(X\) の結果について何も知らなかったときの \(Y\) とは異なった確率になる。
書き方のルール
事象系(左辺):「確定しているもの」をカッコに入れて書く
事象(右辺の上の行):事象を表わす文字のあとに縦棒と「確定しているもの」を書く
容易に想像できるように、例えば「サイコロを投げて出た目の6つの事象からなる事象系 \(A\)」と「コインを投げて出た面の2つの事象からなる事象系 \(B\)」のような場合では、\(A\) の結果が確定しても
\(B\)の事象系には影響しない。このような場合はこれらの事象系に相関がないという。
こういう表を書けば、一方の結果がわかっているときの事象系を考えるのが楽になる。
|
6以下 |
7以上 |
素数 |
2, 3, 5 |
7 |
合成数 |
4, 6 |
8, 9 |
事象系 \(Y\) の結果が \(y_p\) だったことがわかっている場合の事象系 \(X\)、つまり \(X(y_p)\) を記述せよ。
- \(y_p\) が確定しているので、出た目は2, 3, 5, 7の4パターン。そのなかで「6以下」、「7以上」に対応する事象を考える。
- これも事象系なので、2つの事象の確率の和は1になる。
事象系 \(Y\) の結果が \(y_c\) だったことがわかっている場合の事象系 \(X\)、つまり \(X(y_c)\) を記述せよ。
- \(y_c\) が確定しているので、出た目は4, 6, 8, 9の4パターン。そのなかで「6以下」、「7以上」に対応する事象を考える。
- これも事象系なので、2つの事象の確率の和は1になる。
課題1, 2ヒント
解説動画
相関のある事象系では、一方の事象系の結果が確定すると、もう一方の事象系の確率が変わるので、エントロピーの値も変わる。今回の初めの例で、「\(x_s\) が確定している場合の \(Y\) のエントロピー」は
\(H(Y|x_s)\)
のように書く。
書き方のルール
- 縦棒の左が考慮する事象系
- 縦棒の右が確定済みの事象
このエントロピーの値は、(3)の事象系のそれぞれの確率から次のようになる。
\(
\begin{eqnarray}
&&H(Y|x_s)\\
=&&-\frac{3}{5}\log\frac{3}{5}-\frac{2}{5}\log\frac{2}{5}\\
=&&\frac{3}{5}\log\frac{5}{3}+\frac{2}{5}\log\frac{5}{2} (ビット)
\cdots(5)
\end{eqnarray}
\)
同様に、\(x_b\) が確定している場合の \(Y\) のエントロピーは、(4)の事象系のそれぞれの確率から次のようになる。
\(
\begin{eqnarray}
&&H(Y|x_b)\\
=&&-\frac{1}{3}\log\frac{1}{3}-\frac{2}{3}\log\frac{2}{3}\\
=&&\frac{1}{3}\log3+\frac{2}{3}\log\frac{3}{2} (ビット)
\cdots(6)
\end{eqnarray}
\)
ここまででわかっていることを書きだすと以下のようになる。
- \(x_s\) が起こる確率 \(p_s\) は \(\frac{5}{8}\)
- \(x_b\) が起こる確率 \(p_b\) は \(\frac{3}{8}\)
- \(x_s\) が起こったことが確定している場合の \(Y\) のエントロピー \(H(Y|x_s)\) は
\(\frac{3}{5}\log\frac{5}{3}+\frac{2}{5}\log\frac{5}{2} (ビット)\)
- \(x_b\) が起こったことが確定している場合の \(Y\) のエントロピー \(H(Y|x_b)\) は \(\frac{1}{3}\log3+\frac{2}{3}\log\frac{3}{2}
(ビット)\)
それぞれの事象が起こる確率とその情報量をかけて加えることによって情報量の平均値 (エントロピー) を求められるのと同様に、事象系 \(X\) の事象 \(x_i\) が起こる確率 \(p_i\)
と、その事象が起きたことが確定しているときの 事象系 \(Y(x_i)\) のエントロピー \(H(Y|x_i)\) をかけて加えれば「\(X\) の結果が (何に確定しているかは問わず) 確定している場合の \(Y\)
のエントロピー」を求めることができる。このような量のことを
条件付きエントロピーと呼び、\(H(Y|X)\) のように書く。
具体的な値は以下のようになる。
\(
\begin{eqnarray}
&&H(Y|X)\\
=&&\displaystyle \sum_i p_i H(Y|x_i)\\
=&&p_s H(Y|x_s)+p_b H(Y|x_b)\\
=&&\frac{5}{8}\left(\frac{3}{5}\log\frac{5}{3}+\frac{2}{5}\log\frac{5}{2}\right)+\frac{3}{8}\left(\frac{1}{3}\log3+\frac{2}{3}\log\frac{3}{2}\right)\\
=&&\frac{3}{8}\log\frac{5}{3}+\frac{1}{4}\log\frac{5}{2}+\frac{1}{8}\log3+\frac{1}{4}\log\frac{3}{2}\\
=&&0.951...\\
≒&&0.95 (ビット)
\cdots(7)
\end{eqnarray}
\)
|
電卓に「3÷8×log2(5÷3)+1÷4×log2(5÷2)+1÷8×log2(3)+1÷4×log2(3÷2)」のように1行で入力すれば一番楽で正確に求められる。
3÷8=0.375, log2(5÷3)=0.736966..., 1÷4=0.25, ...
のようにそれぞれの項の値を求め、必要な有効桁数の分を残して計算すれば最終的な結果は同じになるが、労力が無駄に増えるだけで、何も良いことはない。
条件付きエントロピー書き方のルールとしては、縦棒の左が対象 (未確定) の事象系、縦棒の右が確定済みの事象系となる。
\(H(Y|X)\):\(X\) の結果が確定している場合の \(Y\)のエントロピー
\(H(X|Y)\):\(Y\) の結果が確定している場合の \(X\)のエントロピー
この例での単純な \(Y\) のエントロピー、つまり \(X\) の結果が確定していない場合の \(Y\) のエントロピーは(2)の事象系のそれぞれの確率から
\(H(Y)=-\frac{1}{2}\log\frac{1}{2}-\frac{1}{2}\log\frac{1}{2}=1\) (ビット)
になる。
一方、 \(H(Y|X)\) の値は 0.95ビットで、これよりも小さい。
エントロピーは「未確定な情報の量がどれだけあるか」を意味するので、「\(X\) の結果がわかったことで \(Y\) についても未確定なことが少し減った」と解釈できる。
相関がない2つの事象系「サイコロを投げて出た目の6つの事象からなる事象系 \(A\)」と「コインを投げて出た面の2つの事象からなる事象系 \(B\)」では、\(H(A|B)=H(A)\)、\(H(B|A)=H(B)\)
になる。
(コインの表裏のどちらが出たかを知ってもサイコロの目については何もわからないし、サイコロの目のどれが出たかを知ってもコインの表裏については何もわからない)
課題1で求めた事象系 \(X(y_p)\) のエントロピー \(H(X|y_p)\) を求めよ。ただし、第1項は対数の形をそのまま残し、第2項は \(\log_24=2\)
であることを使って最も単純な形に変形すること。また、単位も書くこと。
課題2で求めた事象系 \(X(y_c)\) のエントロピー \(H(X|y_c)\) を求めよ。ただし、\(\log_22=1\) であることを使い、最も単純な形まで変形すること。また、単位も書くこと。
課題3, 4の結果から、事象系 \(Y\) の結果がわかっているときの事象系 \(X\) のエントロピー \(H(X|Y)\)
を求めよ。ただし、概要の(7)式と同じレベルの導出過程を書き、最終的な結果は四捨五入して小数第二位までにすること。
考え方は (5)式, (6)式から(7)式を使って \(H(Y|X)\) の値を求めたときと同様で、\(X\) と \(Y\) に関わるものが逆になる。\(p_p, p_c\) の値は(2)式を見ればわかる。
\(
\begin{eqnarray}
&&H(X|Y)\\
=&&\displaystyle \sum_i p_i H(X|y_i)\\
=&&p_p H(X|y_p)+p_c H(X|y_c)\\
\end{eqnarray}
\)
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課題3~5ヒント
ノート・紙に解いた課題を撮影したものを以下のフォームから送信してください。
課題提出用フォーム
※ 締切は9/28(土) 正午です。提出によって出席・点数がつきます。